ケイマン諸島リミッテド・パートナーシップ財産の所有権について(名古屋・船舶リース税務訴訟)
月刊・税理(ぎょうせい刊)2008年7月号の63頁に、「国際的リース取引をめぐる税務訴訟の終焉」と題する論文
(慶応義塾大学法科大学院教授・弁護士増田晋)が載っています。論文は、船舶リース事件の判決が確定
(課税庁の上告申立に対して最高裁の2008年3月27日不受理決定により確定)したことを機に、これまでの有名な組合を利用した節税事件
(映画フィルム事件、航空機リース事件、及び船舶リース事件)を比較総括しています。
この中で、船舶リース事件に係るケイマン諸島の組合法の組合財産規定の解釈について良く理解できないので書いてみました。
1.取引の概要
公表されている名古屋地裁の判決文
(平成17年12月21日 平成16年(行ウ)59号ないし61号 所得税更正処分等取消請求)から読みとると、
取引の概要は次のようなものです。
ケイマン諸島に組成した組合に外航船舶を保有させ、組合は当該船舶を海運会社に賃貸し傭船収入を得ます。
この賃貸し契約は裸傭船契約で単に船のどん殻だけを貸す形態で、運行管理は一切賃借人が行うものです。
組合は傭船契約からの収益と費用を日本人組合員(投資家)に分配します。
当該船舶の減価償却費も持分割合に応じて民法組合の導管論で同時に配分されました。
この減価償却費の組合員への分配は所得の必要経費となり日本の所得税が少なくなりますから、このことの是非が事件の発端で課税庁・
納税者双方共いろいろ主張しています。
①組成生成の根拠法
ケイマン諸島は英国自治領で独自の法律制定権を有しており、法律制度は英国方式に準じています。
今回の組合は成文法であるEXEMPTED
LIMITED PARTNERSHIP LAW(雑誌の解説記事では、特例リミッテド・パートナーシップ法と邦訳。)
に基づき組成されています。組合組成の規定は同法第4条に規定されており、リミッテド・パートナーシップとは、ゼネラル・パートナー
(無限責任組合員である事業運営者)とリミッテド・パートナー(有限責任組合員で事業運営には参加できない投資家)
の2種類の組合員で構成します。リミッテド・パートナーは組合事業の管理運営に一切関与する権利がありませんが、もし関与するとゼネラル・
パートナーと同じく組合債務について責任を負う(同法7条③項)ことになります。
なお、同法4条①項によると、この特例(EXEMPTED)組合はケイマン諸島の域内では活動できず、国外でのみ活動するための組合、
要はオフショア活動のための組合なので、それでEXEMPTED (単に特例と訳されていますが、恐らくは免税特例)
と名付けられているのだと思います。
本件組合は単純化すると、住商リースの現地法人がゼネラル・パートナー(無限責任組合員で事業運営者)として、日本人投資家がリミッテド・
パートナー(有限責任組合員として事業運営には非参加)として組合契約を組成させています。
住商リースのケイマン諸島に現地法人を設立したのは、
ゼネラルパートナーは現地の自然人または現地法人でなければならないという規定があるためです。
②船舶の所有形態
争点の一つが船舶の所有権が誰に帰属するかでした。この争点は地裁では本組合契約の有効性を中心に争って負けた課税庁が控訴審段階で、
組合財産である船舶はゼネラルパートナーの単独所有に帰属するので、リミッテド・パートナー(有限責任組合員)には船舶の共有持分権は無く、
従って減価償却費の配分も無いと力点を代えて主張してきたと月刊・税理の本論文は説明しています。
名古屋高裁の判決文が公表されていないのでここの箇所は確認が取れません。
日本人リミッテド・パートナーは、組合契約に先立ち本件船舶の共有持分権を第三者から購入した上で、
その共有持分権を直ちに同組合に現物出資したとなっています(地裁判決文3頁)。出資取引は複雑で2つの組合を咬ませています。
地裁判決文32頁が記述する組合契約の内、所有権に関する箇所を図示すると次のようになります。
2条 本船の共有持分を、出資日に本組合の組合員が各々購入して本組合に出資することにより、本組合は本船の所有者となる。
3条 本組合は、本船をプロキシオン・リミッテド・パートナシップに現物出資する。
4条 本船を、同パートナーシップ名義のパナマ船籍の船舶として登録する。
注:船舶の固定資産税の安いパナマ国籍取得です。
日本人投資家は日本国内の任意組合を通じてのケイマン諸島のリミッテド・パートナーになる図式です。
日本人投資家
↓
(船舶の共有持分権を購入すると同時に出資)
↓
日本国内の任意組合組成
↓
(日本の任意組合がケイマン諸島の組合に船舶を現物出資)
↓
ケイマン諸島の組合組成(組合名義で船舶のパナマ国籍取得)
↓
(船舶運航会社に裸傭船貸し出し)
↓
船舶運航会社
船舶登録において名義が出るのはケイマン諸島の組合だけで、日本人投資家の名前や日本国内の任意組合は一切出てこないため、 真の船舶所有者が誰であるかが名古屋高裁で争点となりました。
2.特例リミッテド・パートナーシップ法の条文解釈
①特例リミッテド・パートナーシップ法6条②項の組合財産に関する規定
組合財産に関する条文は6条②項に規定されており、次が原文です。
Any property of the exempted limited partnership which is
conveyed to or vested in or held on behalf of any one or more of
the general partners or which is conveyed into or vested in the
name of the exempted limited partnership shall be held or deemed
to be held by the general partner, and if more than one then by
the general partners jointly upon trust, as an asset of the
exempted limited partnership in accordance with the terms of the
partnership agreement.
月刊・税理の解説はこの箇所の邦訳を次のように紹介(70頁欄外注15)しています。
「特例リミッテド・パートナーシップの財産で、1名又は複数名のゼネラル・パートナーに譲渡され、帰属し、
もしくはゼネラルパートナーのために保有されているもの、又は特例リミッテド・パートナーシップに譲渡され、
もしくは同パートナーシップの名義に移転されたものは、ゼネラルパートナーが、複数名の場合は共同して、
パートナーシップ契約の定めに従って、特例リミッテド・パートナーシップの財産として、委託を受けて保有し、
または保有するものとみなされる。」
この邦訳は、同じ著者が名古屋高裁の判決(2008年3月8日)が出た直後に高裁判決を月刊・税理2007年5月号で解説したときも、
2007年5月号101頁欄外注で同じ邦訳を紹介していますから、この邦訳は名古屋高裁の判決文からの引用だろうと思います。
②「委託を受けて保有し、または保有する」の解釈
名古屋高裁は、この6条②項の条文の邦訳の最後の箇所「委託を受けて保有し、または保有する」を「受託して管理している」
との趣旨解釈をした上で、「したがって、本件各組合が本件各船舶を出資してリミッテド・パートナーシップを成立させたからといって、
それによってゼネラルパートナーが当然に本件各船舶の所有権を取得するものとはいえない。」として、現地リミッテド・
パートナーに船舶共有持分権が認め、遡って日本の任意組合の組合員の船舶共有持分権まで認めることになったのです。
この解釈を引き出したことが一つの勝因であります。
③邦訳の疑問
特例リミッテド・パートナーシップ法6条②項の原文は上記①のとおりですが、原文を読んでみて、どの箇所が「委託を受けて保有し、
または保有する」に該当するのか分からないのです。小生は次のように読みました。
主部は、財産の帰属先についての規定で、関係代名詞「 which 」
以下は帰属先がゼネラルパートナーの個人所有の場合と組合名義の場合の2つに分けての記述です。
イ)無限責任社員の個人名で所有する場合の記述
which is conveyed to or vested in or held on behalf of any one
or more of the general partners
無限責任組合員の内の一人又は複数名に対して行われた財産移転又は確定的権利の付与、
若しくは当該無限責任組合員に代表して所有される組合財産は
ロ)組合の組織名義で所有する場合の記述
or which is conveyed into or vested in the name of the exempted
limited partnership
あるいは、組合の名義において行われる財産移転又は確定的権利な付与が行われる組合財産は
述部は、所有権について規定です。
shall be held or deemed to be held by the general partner, and
if more than one then by the general partners jointly upon trust,
as an asset of the exempted limited partnership in accordance
with the terms of the partnership agreement.
(主部の組合財産は)組合契約の条項に従い組合の財産として、無限責任組合員によって所有されるか、または、
所有されているものと見なされる。もし無限責任組合員が複数の場合は、
複数の無限責任社員によって共同で信託法理により所有されるとみなれる。
ケイマン諸島が英領だから、
英国風の解釈だとそうなるのかと思って英国で出版された法律用語辞典にも当たりながら逐語で追いかけみましたが、どう捻っても
「委託を受けて保有し、または保有する」とはならないので浅学の身を恥じるばかりです。小生が律儀すぎるのか、
弁論主義ですから納税者の意訳の勝利なのか良く分かりません。
本事件を解説されている著者もこのことについては何ら言及されていないので疑問の余地のない邦訳なのでしょう。
民法の組合契約を利用したいろいろな節税事件については、判決は、取引当事者の達成しようとした法的・
経済的目的が著しく不合理でなければ当事者の契約関係の法的実質を契約書の文言に即した文理解釈を中心に行う対応をしていますが、
外国のスキームを利用して外国の法律が絡むような場合の外国の条文の文理解釈についてもそのようにやっているのでしょうか。
以前に紹介した紐育州LLCを利用した節税事件の場合は現地LLC法の条文解釈では本当に条文の文理解釈をしているのかと疑問を持ってしまいました。
納税者・課税庁それぞれが有利な意訳をすることも弁論主義だと言われてしまえば、それまでですが......
誤りはご容赦下さい(た)
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