米国の休眠法人を介在させた取引への所得税法の適用
社団法人「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀専務理事が所得税法違反(脱税)
の容疑で逮捕された新聞報道が紙面を賑わしています。
逮捕は所得税法違反(脱税)で、所得隠しを米国の3法人を利用して行ったと報道されています。資金環流は、日本の防衛関連企業(日本)
→ 米国現地3法人 → 秋山容疑者(日本)と図式されています。容疑者が利用した米国3法人は、
いずれも活動休止の届出を州当局に届けてあるとの報道(読売新聞2008.7.25金曜日朝刊39面)がなされています。
新聞記事によると3法人とは次のものです。
1.ADD-BACK INTERNATIONAL CORPORATION(カリフォルニア州ロスアンゼルスで設立、
遮音壁の販売会社ですから営利法人でしょう。)
検索すると同社のホームページは事件の影響からでしょうか工事中で閲覧できなくなってキャッシュも消されていましたが、
アーカイブスで見ることはできました。http://web.archive.org/web/*/http://www.addback.co.jp/ 2007年6月の更新が最後でした。
2.Council for National Security(ワシントンDCで設立)
この法人は、第168回国会・外交防衛委員会・第17号議事録平成二十年一月八日(火曜日)によると当時の秋山参考人が「Council
for National Security 」は米国の非営利団体と説明しています。
3.Japan American Cultural Society(ワシントンDCで設立)
この法人は、インターネットで検索すると、この法人はNon-profit Foundation Japan-American
Cultural Societyの名義で日本国内に寄附金を出したりしていますが、
寄附金を提供するときはFoundationの名称を使っているので法人なのか基金なのか実態が不明です。
記事では休業届けをしてあると書いてありましたが、米国には法人の休止、休業、
あるいは休眠届けの制度があるのだろうかと疑問を持ったので、カリフォルニア州法に当たってみました。
カリフォルニア州の法人の設立根拠法は、CALIFORNIA CORPORATIONS CODEで、
各種法人や非法人組織の規定も整備されています。
Title 1.CORPORATIONS(会社)
Title 2.PARTNERSHIPS(組合)
Title 2.5. LIMITED LIABILITY COMPANIES(有限責任会社)
TITLE 3.UNINCORPORATED ASSOCIATIONS(法人化されていない組織)
Title 4~ Title 5 省略
カリフォルニアの会社設立は州当局(Secretary of State)への法人設立の届出(110条)を行い、
届出から90日以内に受理され効力が発行します。設立の届出から90日以内に定款の内容の一定の情報(STATEMENT OF
INFORMATION)について届出が義務付けられています(1502条)。その後、定款記載事項の内容に変更があればその都度、
変更が無い場合でも2年に1回の情報開示のため州当局への届出が義務付けられています。いろいろ検索してみたのですが、
1502条ではその後毎年の届出となっているのですが、解説では2年に1回となっています。
その2年に1回の根拠法には辿りつけませんでした。
届け出には25ドル(登録費用20ドル+情報公開費用5ドル)を添えることと説明されています。届出義務違反には罰則が適用されます。
インターネットで拾った届出用紙をご参考に末尾に記しておきます。届出の情報に基づき情報公開(有料)がなされています。
このCALIFORNIA CORPORATIONS CODEには法人の事業活動の休止、休業、
休眠のような届出制度が見あたらないのです。休業状態の会社は2年に1回の届出義務は免除するという規定は無いようです。
新聞記事のいう州当局への休業届けが一体どのような制度の下で何のために行われたのか疑問を解明することはできませんでした。
税務については日本と同じで、内国歳入法(IRS)は法人の休眠状態に対する規定を設けていません。
事実上事業活動を休止し休眠状態にあったとしても利益の有無に関わらず税金の申告義務は負っています。
新聞報道によると日本の防衛関連企業からの米国3法人へ振り込まれた資金は、3法人にそのまま滞留し、出金は無かったということですから、
3法人は内国歳入法に従い連邦税を申告をしていたことになります。
想像の域を出ませんが、もしかしたら州税のFranchise taxとの関係があるのかも知れません。
州税までは調べてはいませんが2年に1回の情報公開の届出書にわざわざ「dormant」とか「inactive」
のような記載すればFranchise taxの減免でもあるのでしょうか? ご参考までに敷衍すれば、Franchise
taxとは州税で州が定款を公認(chartered)することにより当該法人は州内で事業活動を行うことができる、
その営業活動の権利に対する課税のようなものです。定款のchartered制度の思想は米国がイギリスの植民地時代まで遡り、
英米法判例で有名なDarmouth College事件(1819年)にその淵源を探ることができます。
外国法人を隠れ蓑にした取引の争点は次のものが想定されます。
1.米国3法人からの秋山直紀容疑者が受けた報酬
米国3法人からの報酬は、
役員報酬で米国本店所在地で課税しようにも休業届けがあるので休業法人における法人と役員の間の委任契約に基づく役務提供はあり得ない。
事実上の役務提供の場所は日本国内で、米国3法人とは無関係に秋山直紀容疑者が日本の防衛関連企業に対して個人役務の提供をしたことになる。
2.米国3法人には恒久的施設の存在
2つの国に所得が跨る場合は事業活動をする恒久的施設の存在で所得の帰属を判定しますが、本件の場合、米国3法人の実態が架空なのか、
どこかに間借りでもしていたのか。この辺は東京地検特捜部は既に現地調査を済ませているのでしょう。仮に恒久的施設が存在していたとして、
新聞報道では休業届けから5程経過していますから、そのような法人の恒久的施設をどのように解釈するのか。法人の設立届出が米国でも、
その米国の恒久的施設が架空や休眠であれば、米国の本店を通じて実態のある日本支店や日本支部の活動の本拠地(恒久的施設)
に所得が帰属すると解釈する可能性もあります。
3.実質課税の原則あるいは法人格否認の法理の適用
休業届けをした米国3法人への資金還流は法人形態を利用した脱税ということで、実質課税の原則(所得税法12条)
を適用して秋山直紀容疑者への所得帰属を認定する。
本件取引全体に法人格否認の法理を適用し、「法人格が法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合」あるいは、休業届けにより
「法人格が全く形骸にすぎない場合」との認定も想定されます。
なかなか興味の尽きない事件ですが、法人の実態あるいは休業届けが大きな意味を持っているのでしょう。
初めて見たカリフォルニア(加利福尼亜)州法です、良く理解出来なかったので誤りはご容赦下さい。(た)
カリフォルニア州会社法のアドレス
http://www.leginfo.ca.gov/cgi-bin/calawquery?codesection=corp&codebody=&hits=20
届出用紙のアドレス初回用(なお、変更無し用、外国会社用、非営利法人用は別になっています。)
http://www.sos.ca.gov/business/corp/pdf/so/corp_so200c.pdf
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